消防予防査察で査察官が本当に見ているところ

消防予防査察の裏話

皆さん、こんにちは。Fire Risk Managementの松永浩行です。

今日は、消防署の建物の立入検査についての話を一つ。

いきなりですが、ひとつ申し上げます。査察官が最初に見ているのは、立派な消火器でも、ぴかぴかの設備でもありません。「この工場は、自分たちが何を扱っているか、本当に分かっているか」――そこを見ています。

私は消防の世界で30年、予防査察を5,000件以上やってきました。その経験から、現場でいちばん多い”危うい工場”の特徴をお話しします。経営者の方、そして工場長・安全管理のご担当者に、ぜひ読んでいただきたい話です。

目次

資格はある。でも、誰も中身を分かっていない

危険物を扱う工場には、たいてい危険物取扱者の資格を持った人がいます。法律で必要だから、取らせている。ここまでは、どの工場もできています。

ところが現場に入ると、こうです。「免許は持っています。でも、細かいことはいちいち覚えていません」。そして消防署から指摘や問い合わせが来ても、「言っている意味が分からない。何をすればいいのか分からない」

これは、ご担当者が怠けているという話ではありません。資格を取るのと、日々の操業の中でそれを”効かせる”のは、まったく別の能力なんです。免許証は持っているが、自分の工場が指定数量に対して今どういう状態なのか、即答できない。査察官はそこを、ほんの数分の会話で見抜きます。

そして、ここからが経営の問題になります。

昔は「話して帰る」、今は空気が変わった

私が消防に入った頃、予防査察はもっと和やかなものでした。現場に行って、少し話して、帰る。その程度です。

それが、今はまったく違います。インターネットやSNSが当たり前になり、企業がコンプライアンスを強く意識するようになった。行政がどう判断するか、どう見るかを、会社が本気で気にするようになったんです。取り締まる側にいて、相手の本気度が30年でここまで変わるのか、と肌で感じてきました。

つまり、昔なら見逃された”なあなあ”が、今は通用しない。 これは脅しではなく、時代が変わったという事実です。

「届出」と「許可」――重みがまったく違う

ここで、経営者の多くが取り違えているポイントをお伝えします。行政の世界には「届出」と「許可」という、似て非なる二つの概念があります。

ざっくり言えば、危険物を指定数量以上に貯蔵・取り扱う場合の「許可」は、消防法を根拠とする重いものです。違反すれば、最悪の場合、営業停止につながることもある。だから現場は、許可に関わる立入検査になると非常に”ぴりぴり”します。一方、少量危険物の「届出」などは火災予防条例が根拠で、また別の話になります。

※この区別や具体的な数量・要件は、業種や自治体の条例によって変わります。正確なところは、必ず専門家や所轄消防にご確認ください。ここでお伝えしたいのは、「許可」というのは取れば終わりではなく、操業を続ける限り責任が続く重いものだ、ということです。

その証拠に、許可を取ると、今度は点検記録や日誌といった書類を継続してつけ続ける義務が生まれます。「許可が下りてホッとした」その先に、毎日の記録という地味で終わらない仕事が待っている。これを軽く見て、いつの間にか形だけになっている工場が、実に多いのです。

では、止まると何を失うのか

ここからが、私が本当にお伝えしたい「経営の話」です。

危険物で収益を上げている工場ほど、事故で操業が止まったときの損は大きくなります。事故が起きれば、行政は安全が確認できるまで操業の停止をかけます。原因究明が終わるまで、ラインは動かせない。その間、1日あたりの利益がまるごと止まります。

仮に、1日の操業で稼ぐ利益が数十万円〜数百万円の工場が、2週間止まったとしたら――それだけで数百万円から数千万円規模の損失です(あくまで試算・目安であり、実際は業種・規模で大きく変わります。自社の数字でぜひ一度計算してみてください)。さらに大きな事故ならニュースになり、取引先からの信用やブランドにも傷がつく。失うものは、止まった日数の利益だけではありません。

ここで見えてくる構図があります。儲かっている工場ほど、止まったときの損が大きい。 だからこそ、ある程度の規模の工場ほど、予防にお金をかける動機が強いのです。「うちは小さいから関係ない」ではなく、「うちは止まると困るから、先に手を打つ」――これが、私の言う”防災を経営の武器にする”の入口です。

問われるのは「どう備えていたか」

最後に、いちばん大事なことを。

問われるのは「事故が必ず起こるかどうか」ではありません。「事故が起こらないよう、会社がどう備えていたか」です。同じことが、いざ事故が起きてしまったときにも問われます。きちんと備えていた会社と、書類だけ揃えていた会社では、その後がまるで違います。

そして、その「備え」の中身が問題です。ひな形に流し込んだだけの、分厚いだけのBCP(事業継続計画)は、いざというとき動きません。必要なのは、“事故が現場でどう起こるか”を知っている人間が、その工場の実態に合わせて作る、中身のある本物のBCPです。私は査察を5,000件見てきたからこそ、どこから火が出て、どこで操業が止まるかが分かる。だから絵に描いた餅ではない計画が作れます。

しかも、この防災投資は、やり方次第で軽くできます。「事業継続力強化計画」という国の認定制度に乗せれば、税制上の優遇や補助金の加点、低利融資といった後押しを受けられる可能性があります(制度の要件・期限は変わりますので、最新の情報は確認が必要です)。この申請は行政への手続きであり、私ども行政書士の領域でもあります。つまり、「やらされる防災」を「お金が返ってくる投資」に変えられるということです。

「消防署に何か言われたが、意味が分からない」「許可は取ったが、その後どうすればいいか不安だ」――もしそう感じることがあれば、それは決して恥ずかしいことではありません。資格があっても、現場が分からなくなるのは当たり前のことです。一度、整理するところからお手伝いします。お気軽にFire Risk Managementへご相談ください。


本記事は一般的な情報提供です。法令の要件・数値、税制や補助金の詳細は、業種・規模・自治体や最新の制度によって異なります。個別の判断は、所轄消防および専門家へのご確認をお願いします。

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